人材のポテンシャルを引き出すコミュニケーションスキルであるコーチングは、ビジネスシーンにおいても有効です。
コーチングをビジネスに導入する企業も増えていて、個人の成長だけでなく、組織全体の成長にも繋がると期待されています。
しかし、コーチングの効果に疑問を持っていたり、学習方法に悩んでいたりする人もいるでしょう。
この記事ではビジネスにコーチングを活かしたいと考えている人向けに、以下のような点について解説していきます。
【この記事でわかること】
- コーチングとは、クライアントの持つ可能性や現状を把握したうえで、目標とする未来・状態まで主体的に進めるようにサポートすること。
- コーチングを導入すると、仕事の生産性の向上、コミュニケーションの活性化、管理職のマネジメントスキルアップ、などのメリットがあります。
- 「コーチングでビジネスの課題を解決したい」といった目的の場合、スクールに通って資格取得を目指したり、実際にコーチングを受けてみたりするのが有効です。

コーチングという言葉を聞いたことはあっても、どのようなものか知らない人も多いのではないでしょうか?世界水準の資格を持つプロコーチが、ティーチングやカウンセリング、コンサルティングとの違いについても説明していきます!
コーチングとは?
コーチングと聞くとスポーツの指導員を意味するコーチを想像する人もいるかもしれません。
一般的にコーチングは「技術などの指導」という意味で使われるケースが多いですが、近年、ビジネスシーンにおいてもコーチングという用語を聞く機会が増えました。
ここでのコーチングは、クライアントの持つ可能性や現状を把握したうえで、目標とする未来・状態まで主体的に進めるようにサポートすることを指します。
英語の「コーチング(coaching)」は、「コーチ(coach)」という単語からの派生語です。
もともとコーチは「馬車」という意味で、馬車は人を目的地まで送り届けるのが役割です。
そこから物理的な移動手段だけでなく、受験の指導をする個人教師やスポーツの指導者などもコーチと呼ぶようになりました。
そして、マネジメントの分野においてもクライアントが望む場所まで誘導する役割の人をコーチと呼ぶようになったのは1950年代頃からだといわれています。
コーチングの定義
現在、コーチングに統一的な定義は存在しません。
組織や団体によって定義が異なるのは、コーチングのどの側面を重要視しているかが違うからだと考えられます。
例えば、コーチング資格の認定などを行っている非営利団体の国際コーチング連盟(ICF)では、コーチングを以下のように定義しています。
コーチングとは、思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くことである
簡単にいえば、相手の目標達成を支援するためのコミュニケーションがコーチングになります。
コーチングは教育や医療などのさまざまな分野で活用されています。
スポーツやビジネスに限定されず、日常生活においても活用できるもので、目標達成のために必要なアクションや解決すべき課題を自らが発見し、自発的に行動できるようにサポートするのがコーチングだといえます。
ビジネスにおけるコーチングの役割
ビジネスにおけるコーチングの主な役割は「人材育成」です。
コーチングは、発想・行動の選択肢を増やし、目標達成に必要な自発的なアクションを促すため、ビジネスにおいては人材育成に寄与してくれます。
ビジネスシーンでは、管理職のマネジメント能力のひとつとして認識されるケースも多いですが、立場に関係なく主体的に考え・動ける人材の育成にコーチングは役立ちます。
コーチングを導入するメリットについては「ビジネスにおけるコーチングの目的」の中で紹介しているので、詳しくはそちらを参考にしてください。
ティーチングやカウンセリングとの違い
コーチングと似た言葉に「ティーチング」や「カウンセリング」があります。
ティーチングやカウンセリングもビジネスシーンで聞くことのある言葉ですが、コーチングとは別のものです。
それぞれの言葉の意味を簡単にまとめると以下のようになります。
コーチング・ティーチング・カウンセリングの意味 | |
---|---|
コーチング | 答えはクライアントの中にあるという前提で、その答えに到達できるようにコミュニケーションを通してサポートすること |
ティーチング | 教える側が持っている答えに到達するための方法を教えること |
カウンセリング | クライアントが持つ悩みや不安の解消、問題点の整理をサポートすること |
コーチングとティーチングの違い
コーチングの中で具体的なアドバイスを行うケースもありますが、助言するだけの指導法はティーチングに近いです。
コーチはあくまでもサポートであり、クライアントが主体的に行動して、答えに到達できるようにするのがコーチングの目的になります。
コーチングにおいて答えはクライアントの中にあるもので、コーチが直接的に答えや答えにたどり着く方法を教えることはありません。
その一方で、ティーチングは、答えに到達するための知識・スキルを身につけるための指導です。
ティーチングにもさまざまな手法がありますが、基本的には教師から生徒へのトップダウンの育成手法になるため、教えられる側の自主性が失われるかもしれない点は懸念すべきでしょう。
さらに詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

コーチングとカウンセリングの違い
クライアントの話を聞くことに重きを置いているという点は、コーチングとカウンセリングで共通です。
ただし、コーチングとカウンセリングでは、その目的が大きく異なります。
カウンセリングは、過去の問題や失敗に関するネガティブな感情を整理して、フラットな状態にするのが目的です。
一方、コーチングは、現状を把握するとともに未来(目標とする自分)から逆算して、今後、どのように行動すれば良いのかを考えます。
マイナスになっていたメンタルを、ゼロの状態に戻すのがカウンセリングだとすれば、より大きなプラスの状態になるよう支援するのがコーチングになります。
例えば、「人間関係のトラブルを抱えていて、ストレスで体調を崩しがち」という場合、より必要性が高いのはカウンセリングの方でしょう。
コーチングとカウンセリングのどちらが優れているという話ではなく、対象とする人や役割がまったく違うものだと考えてください。
コンサルティングとの違い
コーチングはクライアントの行動変容に主眼を置いているのに対して、コンサルティングはクライアントの抱える課題・問題の解決をより重視しています。
コンサルタントはクライアントから話を聞き、抱える経営課題を明確にしたうえで、その解決のための戦略を立案するのが仕事です。
そのため、コンサルタントには、クライアントの業界に関する専門的な知識やデータを客観的に分析するスキルが求められます。
その一方で、コーチングの場合、コーチは具体的なアドバイスを行いません。
問題や解決方法を考えるのはクライアント自身であり、コーチはその支援に徹します。
コーチングも、コンサルティングもビジネスにおいて利用されますが、目的や効果が違うので、それぞれの役割を理解したうえで活用することが重要になるでしょう。

コーチングの役割は、クライアントの中にある答えを引き出すことです。コーチがクライアントのビジネスに関する知識を持っていることは好条件にはなりますが、コーチングにおいての必須条件ではありません。
ビジネスにおけるコーチングの目的
ビジネスにコーチングを導入する目的は、「企業などに属するメンバーの個々のパフォーマンスを上げて、事業全体を成功に導くこと」です。
人材育成の一環としてコーチングを導入する企業も多いですが、ビジネスにおいては以下のようなメリットが期待できます。
【コーチングを導入するメリット】
- 仕事の生産性の向上
- コミュニケーションの活性化
- 管理職のマネジメントスキルアップ
仕事の生産性の向上
コーチングは、クライアントが自身の適性をより深く理解し、自発的に行動できるようにサポートします。
従業員一人ひとりがポテンシャルを最大限発揮して、主体的に考え、動けるようになれば、仕事の生産性も向上します。
また、コーチングによって考え方や行動の選択肢が増えることは、課題を解決するための柔軟な発想力にも繋がるでしょう。
コミュニケーションの活性化
コーチングは、コーチとクライアントの双方向のコミュニケーションです。
「相手の意見を聞く力」と「自分の意見を正しく伝える力」が養われて、コミュニケーションが活性化します。
例えば、上司がコーチングを学んだ場合、部下とのコミュニケーションが円滑になり、より信頼関係を築きやすくなるでしょう。
管理職のマネジメントスキルアップ
コーチングは、管理職のマネジメントスキルの向上にも役立ちます。
以前は上司から部下への一方向の指示命令型のマネジメントが一般的でしたが、徐々にコーチング型のマネジメントも増えてきています。
コーチングで成果を出すためには、コーチとクライアントの信頼関係が重要です。
そのため、コーチングには相手と信頼関係を築くためのコミュニケーション技術が詰まっています。
部下の自立を促し、個々のポテンシャルを引き出すコーチングは、従来型のマネジメントでは解決できなかった問題にも対応できる可能性があります。

コーチングのデメリット
ビジネスにおいてコーチングを導入するメリットは多いですが、すべての問題に対して万能というわけではありません。
ビジネスへのコーチングの導入を検討するときは、コーチングのデメリットについても理解しておいてください。
【ビジネスにおけるコーチングのデメリット】
- コーチングが向かない人もいる
- コーチには専門的なスキルや知識が必要
- 短期間で結果を得るのが難しい
コーチングが向かない人もいる
コーチングは、コーチとのコミュニケーションによって、自分自身の理解を深め、目標達成のためのアクションを自発的に行うことがクライアントに求められます。
コーチングを受けるクライアント側には主体性が必要であり、「コミュニケーションが苦手(本音で話すことができない)」「改善しようとする意志がない(現状に満足している)」という人にはマッチしないケースもあります。
考え方や性格も個性ですが、これらの傾向が見られる思考のままセッションを続けても、十分な効果が得られない可能性が高いです。
コーチングには、コーチングを受ける場合に効果的な思考の傾向と、十分な効果を得られない可能性がある思考の傾向があることを覚えておきましょう。
コーチに専門的なスキルや知識が必要
「コーチングは意味がない」といわれることもある理由のひとつは、コーチのスキル不足です。
コーチングの技術を習得するのは、簡単ではありません。
そのため、外部からプロコーチを招いて、管理職などにコーチングを受けさせる場合は、コーチ選びが非常に重要になります。
また、マネジメントスキルの向上のためにコーチングの技術を身につけてもらうケースでも、スキル・知識が不足していれば十分な効果は出にくいです。
人材育成などのためにコーチングを導入しようと思っても、ハードルが高くて、難しいケースもあるでしょう。
短期間で結果を得るのが難しい
基本的にコーチングの結果は、短期間では出ません。
コーチングを受ける場合、月に1、2回の頻度で半年程度セッションを継続するケースが多いです。
一人のコーチが複数のクライアントを同時に相手するのは難しく、通常、コーチングはマンツーマン形式で行われます。
コーチングよりもティーチングで直接的に指導・助言する方が効率的というケースもあるので、問題の種類に応じて使い分けてください。
もし短期間で結果を出すことを望むなら、コーチング以外の解決策を検討すべきでしょう。
コーチングに必要なスキル
コーチングを行ううえで必要なスキルは以下の3つです。
【コーチングに必要なスキル】
- 傾聴
- 質問
- 承認
傾聴
傾聴とは、相手の話に耳を傾け、興味を示し、共感することです。
普段、意識せずに他者の話を聞く場合、何かをしながらだったり、別のことを考えながらだったりするケースもあると思います。
また、ビジネスシーンにおいては、事実だけを聞いて、相手の心情まで考えるケースは少ないでしょう。
コーチングの傾聴はより深いレベルで相手の話を聞くことが目的です。
そのため、傾聴では相手の話したことだけでなく、話し方や表情、雰囲気なども情報として受け取り、相手を理解しようとします。
自分の話に興味・感心を持ってもらい、否定されたり、意見されたりすることなく話せて、クライアントは本音をいいやすくなります。
傾聴はクライアントとの信頼関係を築くうえでベースとなるスキルです。
質問
前述のとおり、傾聴ではクライアントの話に興味を持つ姿勢も重要です。
「あなたに興味を持っていますよ」ということを形にする方法のひとつが質問であり、適切な質問はクライアントが新たな気づきを得るきっかけにもなります。
このときに注意すべきなのは、安易に答えや意見をいおうとしないことです。
クライアントの中にある答えを自分自身が見つけるのをサポートするのがコーチングであり、その過程でクライアントは成長していきます。
例えば、上司が部下に対してコーチングを行う場合、部下の悩み・課題への明確な答えや意見を持っているかもしれません。
そのようなケースも直接的なアドバイスはせずに、相手が考え、成長できるような質問を投げかけるのがコーチングにおいては重要です。
コーチングで質問するときは、相手の失敗や短所を責める詰問にならないように注意して、クライアントが客観的に現状を分析できるように工夫しましょう。
承認
承認とは、ありのままの相手を認めることです。具体的には相手の良い部分を見つけ、褒めるなどが承認に該当します。
相手をよく観察し、良い部分・良い方向に変化している部分を実際に言葉にして伝えましょう。
コーチングを通して成長するためには、他者から認められる経験が重要です。
「よく見てくれている」「認められた」と感じることで、クライアントは安心感を得て、主体的に行動できるようになります。
また、言葉だけでなく、仕事を任せるなども承認のひとつです。
ただし、お世辞をいったり、仕事を押し付けたりするのは、相手の存在を認めたことになりません。
コーチングにおける承認では、物事・結果の良し悪しを判断することはなく、クライアントと同じ目線で相手の存在・行動を認めます。
相手を褒めることも承認のひとつですが、それだけが承認ではない点に注意してください。
コーチングの学び方と進め方
ビジネスシーンでコーチングのスキルを活用したい場合、どのように学習を進めていけば良いのでしょうか?
コーチングの知識をインプットするだけでは、スキルは身につきません。
例えば、「コーチングに興味があるので少し学んでみたい」というケースは書籍でも十分ですが、「コーチングでビジネスの課題を解決したい」というときは、スクールに通って資格取得を目指したり、実際にコーチングを受けてみたりするのも有効です。
目指すレベルによってコーチング学習の進め方は変わってきます。
もし仕事でコーチングの資格を取得する必要があるなら、資格取得のサポートに対応しているコーチングスクールに通うのが効率的です。

一方で、コーチングに興味を持ち始めたばかりの方、コーチングについてもっと詳しく知りたいという方は、以下のような手順で学習を段階的に進めていくと良いでしょう。
【おすすめのコーチング学習の進め方】
- コーチングに関する書籍を読む
- 単発のコーチングセミナー・研修に参加する
- 実際にコーチングを受けてみる
- コーチングスクールに通う

学習の方法に正解はないので、まずはご自身の取り組みやすい方法でコーチングに触れてみてくださいね!
書籍で学ぶ
コーチングに関する書籍は多く、初心者向けのものから、より実践的なものまで扱っている内容の範囲も幅広いです。
コーチングを学び始めたばかりの人は、できるだけ分かりやすい言葉で書かれたものを選びましょう。
そして、興味を持った分野や内容については、より専門的に解説された書籍を探すのがおすすめです。
書籍で学習するメリットは、費用を抑えられる点です。
その一方で、知識のインプットがメインになるため、コーチングのスキルを身につけるうえで必要なアウトプットはできません。
多くの人におすすめできる学習方法ですが、書籍だけでコーチングのスキルを身につけることはできないと理解しておきましょう。
eラーニングで学ぶ
コーチングはeラーニングで学習することもできます。
「どうやって学べば良いのか分からない」「本を読んだがよく分からなかった」という方は、eラーニングの講座で学ぶというのも有効な方法のひとつになるでしょう。
書籍に比べて費用はかかるものの、アウトプットの機会やテスト付きの講座もあり、より実践的な内容を学びたいという人にもおすすめの方法です。
セミナー・研修で学ぶ
さまざまな企業や団体でコーチングに関するセミナー・研修が行われています。
形式は座学が中心のものもあれば、ワークショップ・実践型のものもあるので、内容や形式を確認のうえ、興味のあるセミナー・研修に参加してください。
講師を務めるプロのコーチなどに質問でき、参加者同士の交流もセミナー・研修で学ぶメリットです。
コーチングのスキルは、一朝一夕では身につきません。
そのため、1回のセミナー・研修でスキルを身につけることはできないでしょう。
独学から一歩進んでコーチングを学びたい人に向いていますが、セミナー・研修だけで実践レベルのスキルを完璧に身につけるのは難しいです。
コーチングスクールで学ぶ
「資格取得を目指している」「ビジネスにコーチングを活用したい」「副業としてコーチングを行いたい」などの明確な目標がある場合は、コーチングスクールで学ぶのがおすすめです。
スクールであればコーチングの基礎から実践レベルの内容まで体系的に学ぶことができます。
インプットだけの学習にならないため、より深くコーチングについて理解できるでしょう。
特に国際コーチング連盟(ICF)認定資格の取得を目指しているなら、ICFの認定スクールを選んでください。
ほかの学習方法と比較した場合、コーチングスクールに通うための費用は高額です。
また、コーチングスクールには数ヶ月〜数年程度通うケースが一般的で、十分な学習時間を確保しないといけません。
コーチングスクールの選び方や料金については以下の記事を参考にしてください。


コーチングの国際水準であるICFの認定スクールは、カリキュラムの質が高く担保されています。そのため、資格取得を目指していなくとも、本気でコーチングを学びたい人にはとてもおすすめです。
ビジネスにおけるコーチングに関するよくある質問
結論|目的に合ったコーチングの導入を
ビジネスにコーチングを導入するメリットは大きいです。
管理職のマネジメントスキル向上だけでなく、組織全体の生産性の向上にも繋がるため、ビジネスやコミュニケーションに課題を感じている人は、コーチングを受けたり、学んでみたりする価値があるでしょう。
その一方で、コーチングには「短期間で結果が出ない」「向いていない人もいる」などのデメリットがあることも忘れてはいけません。
ビジネスにコーチングを活用したいと考えている場合は、目的や効果をしっかりと理解したうえで導入を進めてください。

解決したい課題を明確にした上で、ご自身にあった学習方法でコーチングを学び、ぜひ皆さんのビジネスでも活用してみてくださいね!