フィードバックは、個人やチームの成長を促す重要な手法の1つです。
しかし、一般的なフィードバックでは、指摘や改善点の提示が中心になり、受け取る側がネガティブに感じることも少なくありません。
そのため、単なる課題の指摘ではなく、相手の視点を尊重しながら成長を促すアプローチが求められています。
ここで注目したいのが、コーチングを活用したフィードバックです。
この手法では、課題解決にとどまらず、相手の気づきや成長を促すことを目的としています。
【この記事でわかること】
- コーチング的フィードバックは、相手の気づきを促し成長を支援するアプローチです。
- SBIIモデルとコーチング的視点を活用することで、フィードバックを客観的で受け入れやすいものにできます。
- 信頼関係の構築や適切な問いかけが、効果的なフィードバックの鍵となります。
コーチングの考え方を取り入れることで、よりポジティブで建設的なフィードバックが可能になります。
本記事では、コーチング的フィードバックの特徴や実践方法を、SBIIモデル(Situation, Behavior, Impact, Intent)を活用しながら解説していきます。

ICF認定コーチングスクール代表が、コーチング的視点なども踏まえながら解説します!
コーチングを活用したフィードバックの目的と違い

フィードバックは単なる指摘ではなく、相手の成長を促す機会です。自己認識を深める質問を活用することで、気づきを引き出せます。
そもそも、フィードバックとは?
フィードバックとは、相手の行動や成果に対して情報を提供し、次の行動の改善や継続を促すプロセスです。
一般的には、肯定的な評価(ポジティブ・フィードバック)と、改善点を伝える評価(ネガティブ・フィードバック)に分類されます。
組織や個人の成長には欠かせない手法ですが、受け取る側がネガティブに捉えたり、防衛的になったりすることが課題となることもあります。
適切なフィードバックを行うためには、伝え方やタイミングに配慮することが重要です。
コーチングを活用したフィードバックの目的
一般的なフィードバックは、業務の成果や行動の改善に焦点を当てることが多いですが、コーチングを活用したフィードバックは、相手の成長を促すことを目的としています。
具体的には、相手の視点から状況を理解し、自己認識を深め、成長の方向性を言語化することを目指します。
このアプローチでは、「何を改善すべきか」ではなく、「どのような成長を遂げたいか」に焦点を当てます。
そのため、相手の思考プロセスや価値観を尊重しながら対話を進めることが重要です。
コーチング自体についてもっと知りたい方は、下記の記事も参考にしてみください。

一般的なフィードバックとの違い
一般的なフィードバックと、コーチングを活用したフィードバックの違いは、その目的にあります。
- 一般的なフィードバック:特定の行動や成果について、改善点や評価を伝えることが主目的。
- コーチングを活用したフィードバック:相手の成長を促し、自己認識を深めることを目的とする。
例えば、一般的なフィードバックでは「このプレゼンでは論理構成が不明瞭だったので、次回はもっと整理してください」と指摘するのに対し、コーチング的フィードバックでは「今回のプレゼンで伝えたかったことは何でしたか?どのように工夫すると、より伝わると思いますか?」と問いかけ、相手に気づきを促します。
ティーチング型のフィードバックとの違い
ティーチング型のフィードバックは、具体的な指導を行い、次にやるべきことを明確に示すスタイルです。
一方、コーチング的フィードバックは、相手が主体的に考え、成長することを支援するスタイルです。
- ティーチング型:「次はこの手順でやるといいよ」と、明確な指示を与える。
- コーチング型:「どのようにすればより良くなると思う?」と、相手の考えを引き出す。
ティーチング型は短期的な成果を求める場面では有効ですが、相手の自主性や成長を促すには、コーチング型のフィードバックが適しています。
コーチングを活用したフィードバックのポイント

相手の価値観や考えを尊重することが重要です。対話の中で、相手が自ら解決策を見出せるような関わりを意識しましょう。
人に焦点を当てる
コーチング的フィードバックでは、単なる行動の指摘ではなく、相手の思考や感情に焦点を当てることが重要です。
行動の背景にある価値観や信念、理想像を理解し、それに基づいた対話を行うことで、より効果的なフィードバックになります。
例えば、「今回のプロジェクトにおいて、どんなことを意識しましたか?」「そこにはどんな思いや感情がありますか?」と問いかけることで、相手の考えや価値観を引き出しやすくなります。
フィードバックは「テーブルの上に置く」
フィードバックを提供する際は、評価や判断を押し付けるのではなく、「情報」として伝えることが重要です。 これを「フィードバックをテーブルの上に置く」と表現することがあります。
具体的には、「あなたのプレゼンを聞いて、私はこう感じました。これを聞いてみてどう思いますか?」といった形で、自分の視点として伝えることが効果的です。
こうすることで、相手はフィードバックを客観的な情報として受け取り、自らの成長の材料とすることができます。
本人主体で、成長軸を言語化する
コーチング的フィードバックでは、相手が主体的に成長軸を言語化することをサポートします。 これは、「どうなりたいか」「どのように成長したいか」を明確にするプロセスです。
例えば、「今後、どんなスキルを伸ばしていきたいですか?」「この経験はどのようにあなたの成長に繋がりそうですか?」と問いかけることで、相手の成長意欲を引き出します。
コーチングを活用したフィードバックの伝え方と具体例〜SBIIモデルを活用して〜

SBIIモデルを活用すると、フィードバックが客観的で受け入れやすくなります。特に、意図(Intent)を問いかけることで、相手の主体性を引き出せます。
コーチングを活用したフィードバックを実践するためには、SBIIモデル(Situation, Behavior, Impact, Intent)を活用することが効果的です。
このモデルは、具体的な状況、行動、それによる影響を整理しながらフィードバックを伝える方法で、相手が客観的に状況を理解し、成長につなげやすくなります。
また、フィードバックを「テーブルの上に置く」という考え方も重要です。
これは、フィードバックを評価や押し付けではなく、相手と共に考える材料として提示する姿勢を意味します。このアプローチにより、相手は防衛的にならずにフィードバックを受け入れやすくなります。
SBIIモデルは、下記のステップで行なっていきます。
【SBIIモデルのステップ】
- 【Step1】S(Situation):状況を明確にする
- 【Step2】B(Behavior):具体的な行動を伝える
- 【Step3】I(Impact):その行動が与えた影響を伝える
- 【Step4】I(Intent):意図を明確にする
【Step1】S(Situation):状況を明確にする
まず、フィードバックの前提となる状況を明確に伝えます。
相手にとって共通認識が持てる具体的な出来事や場面を説明することで、フィードバックを受け入れやすくなります。
例えば、「先週のチーム会議での発表について話したいのですが」と前置きし、相手が思い出しやすいように状況を明確にします。
このステップを丁寧に行うことで、フィードバックが抽象的にならず、相手が的確に受け止められるようになります。
- 具体例:「先週のチーム会議での発表について話したいのですが、その際に〇〇さんがどのような意図を持って発表していたか、一緒に振り返ってみませんか?」
【Step2】B(Behavior):具体的な行動を伝える
次に、その状況の中で相手がとった具体的な行動を伝えます。評価や解釈を加えず、事実を客観的に述べることが重要です。
例えば、「あなたは発表の際に、データを示しながら説明していました」と伝えます。この段階では、行動の良し悪しを判断するのではなく、事実を伝えることに徹します。
主観的な言葉を避けることで、相手が防衛的にならずにフィードバックを受け入れやすくなります。
- 具体例:「〇〇さんは発表の際に、データを示しながら説明していましたよね。その中で、スライドの切り替えを素早く行っていたように見えました。」
【Step3】I(Impact):その行動が与えた影響を伝える
ここでは、行動がどのような影響を与えたのかを伝えます。フィードバックを「テーブルの上に置く」という視点を持つことで、「私はこう感じた」「私はこう受け取った」という形で伝えられます。
例えば、「あなたがデータを活用して説明してくれたことで、参加者は内容を理解しやすかったように私は感じました」といったように、行動の影響を具体的に伝えることで、相手が冷静に受け止めやすくなります。
コーチング的視点を取り入れると、「何によってあなたはその説明方法を選びましたか?」と相手の考えをさらに引き出すこともできます。
「他の方法で説明するとしたら、どんなアプローチが考えられますか?」「さらに成長していくために、どんなポイントがありそうですか?」と問いかけることで、相手自身が振り返りながら新たな学びを得る機会を提供できます。
- 具体例:「会議の後に何人かの参加者に感想を聞いたのですが、『データの量が多くて、ポイントをつかみづらかった』という意見がありました。一方で、『論理的な説明がとても良かった』という意見もありました。これらの感想をきいてみて、どんなことを感じますか?」
【Step4】I(Intent):意図を明確にする
最後に、相手が今後どのような意図を持って行動するかを明確にすることで、フィードバックをより効果的に活かせるようにします。
このステップでは、本人がどのような考えのもと行動するのかを整理し、自己認識を深めることを目的とします。
例えば、「今回のフィードバックを踏まえて、成長のために取り組みたいことはなんですか?」と問いかけることで、相手が主体的に自分の目標を言語化できるよう促します。
また、「そこにはどんな意図や思いがありますか?」と尋ねることで、行動の背景にある意図を明確にし、相手の成長を支援できます。
意図を明確にすることで、相手はフィードバックを単なる指摘ではなく、自己成長のための指針として捉えやすくなります。
ここでもフィードバックを「テーブルの上に置く」ことが大切です。
相手の考えを尊重し、相手が自分の言葉で行動や意図を言語化できるようにサポートしながら対話を進めます。これにより、本人が納得感を持ち、自らの意志で行動を改善できるようになります。
- 具体例:「今回の経験を通じて、どのような学びがありましたか?」 「この学びを踏まえて取り組みたいことはなんですか?」「それはあなたにとってどんな意図や意味がありますか?」
コーチングの視点を取り入れたフィードバックをする注意点

フィードバックの前提として、信頼関係の構築が不可欠です。普段から相手の意見を尊重し、安心して話せる環境を整えましょう。
信頼関係は築けているか
フィードバックは、相手が信頼できる環境でこそ効果を発揮します。
日常的なコミュニケーションの積み重ねが、受け手が安心してフィードバックを受け入れる土台を作ります。
日頃から相手の意見を尊重し、感謝の気持ちを伝えることで、信頼関係を構築することが大切です。
フィードバックの目的を明確にする
相手の成長を目的としたフィードバックであることを伝えることで、防衛的な反応を防ぎ、前向きな受け入れが可能になります。
例えば、「今回のフィードバック内容を、あなたのプレゼンのスキルの向上の材料にして欲しいと思っています」など、フィードバックすることの意図を相手に明確に伝えます。
相手の気づきを促す質問を活用する
単なる指摘ではなく、質問を通じて相手自身の気づきを引き出すことが、成長を促すポイントとなります。
例えば、「フィードバックを聞いてみて、どんなことを感じますか?」「どのように自分の成長につなげられそうですか?」などと問い掛けることで、気づきを引き出しながら相手の感情や思考を言語化し、自発的な行動を促すことも可能です。
結論|コーチングの視点を取り入れたフィードバックは、相手に気づきを与え、自発的な行動を促す
コーチングの視点を取り入れたフィードバックは、単なる指摘や指導ではなく、相手が自らの成長に気づき、主体的に学ぶ機会を提供することが目的です。
そのため、信頼関係の構築や質問の活用が重要となります。
実践を重ねることで、フィードバックが単なる評価ではなく、相手の可能性を引き出す貴重な対話となります。
日常のコミュニケーションに取り入れながら、相手の成長をサポートするフィードバックを実践していきましょう。

コーチング的フィードバックは、相手の可能性を広げる対話です。評価ではなく成長の機会として捉え、実践を重ねていきましょう!
コーチングを活用したフィードバックに関するよくあるQ&A
最後にコーチングを活用したフィードバックに関するよくある質問にQ&A形式で回答します。