離職率の増加やコミュニケーションの希薄化など、職場環境の悪化を避けるために対策を検討しているリーダーの方は多いでしょう。
心理的安全性を高めることで職場環境の悪化を防ぎ、社員の生産性を向上させられる可能性があります。
今回は心理的安全性の意味や重要性、メリットや低いときのデメリット、高める方法などを解説していきます。
心理的安全性に関する大手企業の取り組み事例や、心理的安全性を高めるときの注意点などについても触れているので、あわせて参考にしてください。
心理的安全性とは?
心理的安全性について理解を深めるために、定義や注目される背景、低いときの不安、重視する人の割合などを解説していきます。
心理的安全性の定義
心理的安全性とは、チームの中で自分の発言がほかのメンバーに受け入れられることを確信できる状態です。エイミー・C・エドモンドソン教授が提唱した概念として知られています。
チーム内で自分の考えや感情を伝えるとき、恥ずかしい思いをしたり拒絶されたりしなければ、誰しもが自由に発言しやすくなります。
チームのメンバーに安心感を与えるためには、心理的安全性を確保することが重要です。
心理的安全性が注目されるようになった背景
心理的安全性が注目されるようになった背景には、Google社の存在が関係しています。Google社は成果を高めるチーム作りを目指して、成果の低いチームと成果の高いチームについて社内調査を行いました。
結果として2015年には、成功チームの共通因子として心理的安全性が重要であるという見解を示します。世界的に有名な企業が重要視したことから、多くの方が心理的安全性の考え方に注目し始めたのでしょう。
心理的安全性の低さがもたらす不安
心理的安全性が低いと、メンバーにさまざまな種類の不安を与えます。
たとえば、無能・無知だと思われる不安です。不安が大きくなると、仕事ができないと思われることを避けるために、わからないことを自由に聞けなくなります。
邪魔をしていると思われる不安も挙げられます。ほかのメンバーの誤りに気づいたとしても、不安によって発言の機会を失い、正せなくなってしまうでしょう。
そのほか、ネガティブだと思われる不安もあります。「考えすぎかな?」とリスクについて言及しなければ、プロジェクトの重大な欠陥をチームで見落としてしまう可能性も高くなります。
このように心理的安全性の低さがもたらす不安は、チームに悪影響を与える可能性が高いです。
心理的安全性を重視する人の割合
リクルートマネジメントソリューションズは、機関誌のRMS Message(2017年11月)で、心理的安全性を重視する人の割合に関する調査結果を公表しました。組織・チームのリーダー516名が調査対象です。
「心理的安全性はチーム運営上必要か」という質問に対して、「必要である」という回答の割合が75.2%、「どちらともいえない、必要でない」という回答の割合が24.8%でした。
すでにほとんどのリーダーが心理的安全性を重視していることがわかります。
参考:組織の成果や学びにつながる心理的安全性のあり方(リクルートマネジメントソリューションズ)
心理的安全性の測定方法
心理的安全性を測定するには、エドモンソン教授が提唱した質問に対する結果を数値化する方法があります。
具体的な質問内容は下記の通りです。
- チーム内でミスをすると批判されますか?
- チーム内で課題やネガティブな内容を話し合えますか?
- チーム内で異質なものを受け入れない傾向がありますか?
- チーム内でリスクのある行動を安心して起こせますか?
- チーム内で助けを求めやすいですか?
- チーム内に自分をだますメンバーはいますか?
- チーム内で業務を進めるときに自分のスキルが役に立っていると感じますか?
たとえば、否定的な質問に対して
「1:まったくその通りだ」
「2:その通りだ」
「3:どちらともいえない」
「4:その通りでない」
「5:まったくその通りでない」
などの回答を用意します。
肯定的な質問に対しては「5:まったくその通りだ」~「1:まったくその通りでない」のように順番を反対にしましょう。
最終的に回答で得られた合計点が高ければ、心理的安全性が高いことがわかります。
心理的安全性を高めるメリット
心理的安全性を確保すれば職場の不安を減らせますが、具体的にどのようなメリットが得られるか気になりますよね。心理的安全性を確保するメリットを解説していきます。
メリット1.コミュニケーションが増える
心理的安全性を確保すれば、自分の発言が受け入れられるという安心感が得られるので、コミュニケーションが活発になります。
「あの人と話すのが怖い」という気持ちも生じにくくなるので、情報共有をするときの負担も減り、仕事を進めやすくなります。
メリット2.離職率が減る
コラボレーション改善クラウド「Unipos」を運営する「Fringe81 Uniposカンパニー」が「仕事と心理的安全性」に関する意識調査を行いました。調査対象は全国の上場企業に勤務する20~59歳の男女377名です。
「あなたは、この職場で働き続けたいですか?」という質問に対して、否定的な回答をした人の心理的安全性スコアは、肯定的な回答をした人よりも0.84pt低かったとのことです。したがって、心理的安全性を高めれば離職率を減らせる可能性があります。
参考:約4人に1人が「離職意向あり」–Unipos、「仕事と心理的安全性」に関する調査レポート(朝日インタラクティブ)
朝日インタラクティブ
メリット3.イノベーションが生まれやすくなる
成功体験を重ねてきたチームだと、暗黙のルールに異論を唱えづらいです。
その点、心理的安全性が高いと自分の考えを発信しやすくなるので、新たなアイデアやプロジェクトが立案されやすくなります。
自社のサービスやビジネスモデル、組織に新たな価値が生まれやすくなり、社会に大きな影響を与える企業に飛躍していけるでしょう。
メリット4.多様な人材が集まりやすくなる
心理的安全性が高ければ、発言だけでなく価値観も受け入れられやすくなります。
さまざまな考え方や能力を持つ人材が集まりやすくなるので、ビジネスの幅を広げられる可能性が高くなります。
メリット5.エンゲージメントが高まる
エンゲージメントとは組織に対する愛着心です。心理的安全性が確保された職場では、チーム内で助け合いの精神が生まれやすく、感謝する機会が増えます。
チームに対する感謝の念が強固になっていけばエンゲージメントが高まり、自分のことだけを考える社員も少なくなっていくでしょう。
心理的安全性が低下するデメリット
心理的安全性の低下はさまざまな悪影響を及ぼす恐れがあります。心理的安全性が低下するデメリットについて確認してみましょう。
デメリット1.プロジェクトが失敗するリスクが高まる
心理的安全性が低いと、自分で解決しないと何を言われるかわからないという不安が生じやすいです。その結果、仕事で困ったときにチームに助けを求めづらくなります。
自分で仕事を抱え込んでしまった結果、納期に間に合わなくなるケースは珍しくありません。プロジェクトの失敗を防ぐためにも心理的安全性を高めることが重要です。
デメリット2.改ざんや嘘が増える
エドモンドソンによると、心理的安全性が低い環境で責任やプレッシャーが増すほど不安が増えるとのことです。
競争の激しい市場環境にいる社員が不安を抱くと、多少の改ざんや嘘をついてでも成果を上げるべきだという考えになりやすいです。たとえば、商品の不具合に気づいているのに、あえて言及しないケースがよい例でしょう。
不正や改ざんが生じて発覚すれば、消費者に多大な迷惑をかけ、会社としての信頼を失ってしまいます。
デメリット3.メンタルヘルスの不調が多くなる
チームのリーダーが高い目標を掲げているとき、心理的安全性が欠如していれば、ミスや失敗に対する恐怖が増加しやすくなります。
実力以上の業務を続けると、精神を病んでしまうリスクが高まります。うつ病で休職する社員が発生すれば、当初掲げていた目標の達成も困難になってしまうでしょう。
デメリット4.パワハラが発生しやすくなる
パワハラの原因の一つが、上司から部下への一方的なコミュニケーションです。双方向のコミュニケーションであれば、自然と対等な関係を築けるので、嫌がらせは発生しないでしょう。
その点、心理的安全性が低い職場では、部下が上司に対して対等に意見を伝えづらいです。会話が一方通行になってしまいやすく、パワハラが発生しやすいといえます。
デメリット5.個人のパフォーマンスが下がる
心理的安全性が低いと、リスクの高い行動を取りづらくなります。失敗を避けるために上司の指示を仰ぐことが多くなってしまえば、確認の工程が増えます。
上司が近くにいないときには、業務がストップしてしまうケースも珍しくありません。最終的に、個人の生産性が低下しやすくなります。
心理的安全性を高める4つの因子
心理的安全性を高めるには4つの因子に着目することが重要です。それぞれの因子について詳細を解説していきます。
会話しやすさ
心理的安全性を高める因子として、チーム内で気軽に話したり相談したりできる環境が重要です。
上司に話しかけてもパソコンの入力をやめなかったり、目をあわせてくれなかったりすれば、メンバーは相談しづらくなります。
職場で会話しづらいと感じる原因を見直すことで、コミュニケーションが活発化する可能性があります。
サポート
心理的安全性が高いチームは、お互いにサポートしやすい風土が醸成されています。
自分がチームのメンバーを助けても正答に評価されないと、助け合いの精神が薄れてしまいやすくなります。また、助けてもらうことばかり考えるのも問題です。忙しいメンバーだと、サポートするときの負担が大きくなってしまいます。
リーダーは、メンバー同士が率先して助け合える工夫を検討する必要があります。
チャレンジ
心理的安全性は、チャレンジしやすい環境だと高まりやすいです。チャレンジしやすい環境とは、失敗しても人格や能力が否定されない環境です。
リーダーが挑戦したり失敗したりする姿を見せていくことで、メンバーが前向きに挑戦しやすい環境に近づいていきます。
反対にリーダーが完璧主義になりすぎたり、責任の所在を追及しすぎたりすると、チャレンジ意欲が低くなるので注意してください。
受容
心理的安全性と大きく関係する因子が受容です。異質な価値観やスキル、方法などを受け入れられる環境が、心理的安全性の高さに直結します。
ただ、考え方の違う社員がお互いを理解しあうのは難しい場面もあります。
リーダーはチームのメンバーに納得してもらえる共通目標を定めて、同じゴールを目指してもらえるようにマネジメントすることが重要です。
心理的安全性を高める方法
心理的安全性を高めるために何から始めればよいのか、イメージが湧かない方もいるでしょう。ここからは心理的安全性を高める具体的な方法を解説していきます。
メッセージの返信に配慮する
心理的安全性を高めるには、メッセージの返信に配慮する必要があります。
たとえばテレワーク下で、資料を提出してくれたメンバーに対して、リーダーがすぐに返信をしなかったとしましょう。メンバーは「出来栄えがよくなかったのではないか?」「重大なミスがあったのではないか?」と、返信が来るまで不安を抱えてしまいます。
資料をすぐに確認できない場合もありますが、確認の完了日に関して返信するだけでも、メンバーは安心しやすくなります。メンバーは上司が怒っていると勘違いしなくて済むので、その後のコミュニケーションでも上司に対して恐れを抱きづらくなるでしょう。
したがって、メッセージの返信に関しては素早く反応することが重要です。チャットを利用しているのであれば、スタンプによるリアクション機能も活用してみましょう。
交流の機会を増やす
心理的安全性を高めるには交流の機会を増やすことも重要です。
たとえば、飲み会やパーティーなどを開催して、メンバー同士を交流させます。職場で怖いと思っていた人と趣味が同じであることが判明し、仲良くなれるケースも珍しくありません。
その結果、今まで話しかけづらかったのが嘘のように、職場で会話しやすくなることがあります。
Web会議ツールを活用すれば、リモートでも気軽に飲み会や昼食会を開催できます。テレワークで交流会を開催しづらいときに試してみるとよいでしょう。
1対1の個別相談を取り入れる
チームで複数のメンバーがいるときだと、どうしても話しづらいことがあります。また、上司に相談しても親身に話を聞いてくれるのか、不安に思うメンバーもいます。
したがって1対1の個別相談を取り入れて、リーダーとメンバーの間で信頼関係を構築することが重要です。
上司が話を聞いてくれたという経験を積み重ねていけば、メンバーがまた相談してみようという気持ちになりやすくなります。
メンバーが悩みを抱え込んでしまうリスクを軽減しやすくなるでしょう。
メンバー同士で本音を伝え合う
メンバー同士でお互いに本音を伝え合うプログラムの実践も重要です。たとえば、「遅刻しないでほしい」「貧乏ゆすりをやめてほしい」などの要望について伝え合います。
ただ、相手を責める気持ちを持ってしまうと、聞く耳を持ってもらえないどころか、反撃されてしまうリスクが高くなります。また、伝え方が曖昧だと事実確認で揉めてしまうこともあるでしょう。
したがって、本音を伝え合うコミュニケーションを学ぶ研修も導入してみてください。
評価制度を見直す
発言によって評価が下がるのではないかという不安をなくすために、評価制度を見直すことも大切です。
心理的安全性を高める評価方法として検討できるのがノーレイティングです。
社員の業績をSランクやAランクなどのように評価をせず、上司が部下との面談を通して仕事ぶりを評価をする方法です。
部下は上司からフィードバックを受けられるので、一方的に評価を突きつけられてしまうという不安を払しょくできます。
面談を繰り返すことで上司との信頼関係も構築できるので、日頃の発言によって評価が下がってしまっているのではないかと、疑心暗鬼にならずに済みます。
高める方法6.ポジティブな問いかけを行う
ポジティブな問いかけを意識するだけでも、心理的安全性を高めやすくなります。
仮にチームで納期に遅れたメンバーがいるとしましょう。「なぜ納期に間に合わなかったの?」と質問をすると、メンバーは責められているような気がしてしまいます。言いたいことがあっても、言い訳をしているように思われると不安になり、的確に回答しづらくなるでしょう。
反対に「納期に間に合うようにするにはどうすればよい?」と質問をすれば、メンバーは言い訳をしなくて済み、改善策について回答しやすくなります。
このように問いかけの仕方を変えるだけでも、メンバーの発言しやすさは変わってきます。メンバーに問いかけるときは、質問がネガティブな表現にならないように注意しましょう。
心理的安全性を高める企業の取組事例
心理的安全性を高める方法を知るには、実際に企業が取り組んだ事例も参考になります。ここからはGoogleやリクルート、メルカリが心理的安全性を高めるために行った取り組みをご紹介していきます。
Googleはインターネットの検索エンジンを提供している企業です。「Google Chrome」というブラウザを提供しています。
Googleは社内に心理的安全性の重要性を共有するために、各チームに対して心理的安全性に関するワークショップを行いました。
具体的には、心理的安全性に好影響を与える行動と、悪影響を与える行動を紹介して、ロールプレイで匿名化されたシナリオを示しました。
実際に取り上げられたシナリオとして、要求水準が高いマネージャーがメンバーのアイデアを皆の前で厳しく非難した場面が挙げられています。
シナリオ紹介後には、「心理的安全性の欠落を示唆する振る舞いは?」「心理的安全性はなぜ重要だと思いますか?」などの質問が用意されていました。
リクルートホールディングス
リクルートホールディングスは、就職や進学、住宅、ヘアサロンなどのさまざまなジャンルで、企業と個人のマッチングサービスを提供している企業です。
リクルートホールディングスでは、重要視してきた「個の尊重(BET ON PASSION)」を従業員が体現し続けるために、心理的安全性が重要だと考えられています。
心理的安全性を高めるために行った方法が、社内コミュニケーションの活性化を目的とした社内メールマガジン「WOW通信」です。2019年1月から配信が始まりました。
メールマガジンでは、従業員の価値観や役員の戦略などを共有しています。すでに約150人の社員が紹介され、従業員同士の相互理解が促進されました。
そのほか、相互理解の施策として「今月の調子さん」という取り組みも行っています。社員は月に一度だけ仕事やプライベートに関する内容についてコメントを記載し、自分のコンディションを1~10段階で表現してオープンにします。
お互いの状況がわかるので、会話のきっかけ作りにもなり、コミュニケーションを交わしやすくなるでしょう。
メルカリ
メルカリは、不用品を自宅から出品できるフリマアプリを提供している企業です。メルカリでは、心理的安全性を高める方法として、メンバーごとに毎週30分の1on1ミーティングを実施しています。
話し合う内容は仕事だけに限りません。上司と部下の間で、プライベートの内容など他愛もないことを話せる関係を構築します。困ったときに相談しやすい心理状態に整えることが目的です。
そのほか、心理的安全性を把握するためにSlackというチャットツールを導入しています。Slackではクローズドなチャンネルを作れるので、心理的安全性が確保されていない状態だと、クローズド率が上がります。
経営陣がクローズド率を確認し、マネージャーにフィードバックして、改善を促しているとのことです。
心理的安全性を高めるときの注意点
やみくもに心理的安全性を高めようとすると失敗してしまう可能性もあります。心理的安全性を高めるときの注意点についても確認しておきましょう。
ぬるま湯にならないようにする
心理的安全性を高める方法はさまざまありますが、ぬるま湯になってしまわないように注意が必要です。
心理的安全性が高まると、ミスが受け入れてもらいやすくなるので、新しいことにチャレンジしやすくなります。しかし、仕事でミスが多くなってしまえば、取引先やサービスの利用者に迷惑がかかるのも事実です。
したがって、心理的安全性を高めるときは仕事に要求される基準を落とさないように気をつけましょう。そのために、ミスが発生したときは放置せず、原因を明らかにすることが重要です。
むやみに交流の機会を増やさない
心理的安全性を高める方法として、交流の機会を増やす方法がありました。しかし、むやみに交流の機会を増やすと、従業員の負担が増える恐れもあるので注意してください。
たとえば、飲み会やパーティーに参加することが苦手な方もいます。また、参加費用を節約したいと考える方もいるでしょう。
勤務時間中に同じ仕事を二人に任せたり、出張の際にカフェで軽食を一緒に食べたりするだけでも、交流の機会を増やせます。メンバーに負担をかけないように、交流の機会を増やす方法についてもよく検討してみましょう。
まとめ
以上、心理的安全性の意味やメリット、低いときのデメリットをおさらいし、心理的安全性を高める方法について解説しました。
心理的安全性は、チームの中で自分の発言がほかの人に受け入れられると確信できる状態です。心理的安全性を高めれば、コミュニケーションが増えたり離職率が下がったりするメリットがありました。
反対に心理的安全性が低いと、プロジェクトが失敗するリスクが高まったり、改ざんや嘘が増えたりするデメリットがありました。
心理的安全性を高めるには、1対1の個別相談を取り入れたり、評価制度を見直したりする方法などがあります。さまざまな方法があるので、自社に適した手段で心理的安全性を高めましょう。