1on1で話すことがよいと聞き、実施を検討している方もいるでしょう。いざ実施しようとしたとき、話すことの内容が思い浮かばず困ることがあります。
今回は1on1で話すことの目的をはじめ、テーマ一覧や準備、やめてほしいといわれる原因などを解説します。
1on1で話すことに不安があれば、マニュアルとしてお役立てください。
1on1で話すことの目的
チームのメンバー達と同時に話せば、効率的にコミュニケーションを交わせます。しかしなぜ、1on1で話すことが重要だといわれるのでしょうか。まずは、1on1で話すことの目的から解説します。
本音の把握
複数人がいる場だと、協調しようという意識が働きやすく、本音を言いづらくなります。協調性は大切ですが、チームのためになる情報が得られないのも問題です。
その点、1on1であればほかのメンバーを意識しなくて済むので、各自が思っていることを正直に話しやすくなります。リーダーがメンバーの本音を引き出すために1on1で話すことはとても有効です。
信頼関係の強化
1on1で普段チームで話さない内容を語り合うことで、お互いに対する理解を深めて信頼関係を強化できます。
信頼関係を強化すれば、相手の言葉に傷ついたり、相手の行動に不満を感じたりする頻度も減り、お互いに安心して活動できるようになります。
苦手意識のある関係でも、腹を割って話すと従来の関係が大きく改善するケースも多いです。たとえば、共通している趣味や食べ物などが判明して仲良くなるパターンもあります、心理的安全性に課題がある場合は、1on1で信頼関係を強化する目的を意識してみましょう。
成長の確認
複数人で活動を振り返るとき、チームの成長を確認できますが、個人の成長まで細かく確認するのが難しくなります。場合によっては、大きな成果を出した方に目が行ってしまい、ほかのメンバーの成長を見落とすこともあるでしょう。
成長に対して適切な評価が得られなければ、メンバーのやる気が低下してチームに悪影響が及ぶ恐れもあります。
公正な評価体制を実現するためにも、1on1で各メンバーの話をじっくり聞いて、成長を正確に確認することが重要です。
離職の防止
組織に対する本当の不満は、ほかのメンバーがいる前では話しづらいです。不満をため込んでしまった結果、唐突に離職を申し出る方も少なくありません。
日ごろから1on1でメンバーの不満をヒアリングしておけば対策を講じられます。組織の環境を改善できれば、ほかのメンバーの離職も防げるかもしれません。
特にストレスが生じやすい組織では、離職の防止を目的に1on1を導入してみましょう。
1on1で話すことのテーマ例一覧
1on1で話すことの目的がおわかりいただけたでしょう。ただ、1on1で話すことに慣れていない方だと、相手と何を話せばよいのか思い浮かばないかもしれません。1on1で話すテーマは意外とたくさんあります。事前にテーマを把握しておけば、柔軟に必要な内容を話し合えるはずです。引き続き1on1で話すことのテーマを解説します。
業務
業務はチームの基本的な活動であるため、1on1で話すことのテーマとして代表的です。内容の例としては業務の悩み、ミス、ストレス、改善案などが挙げられます。
1on1であれば、業務でうまくいかない点を聞き出しやすく、課題に対してアドバイスをしやすくなります。
部下の生産性が低いと感じている場合は、業務について話し合って原因を探ってみましょう。
人間関係
組織で不満を感じやすい要素が人間関係です。業務を進める中で人間関係に悩み、ストレスをため込むメンバーもいます。
たとえば、先輩に怒られるのが怖くて、本来の力を出し切れていないメンバーもいるかもしれません。1on1であれば話しにくい人間関係のトラブルを聞き出しやすいです。相性の悪いメンバーを一緒に活動させないという配慮も行えるようになります。
人間関係のトラブルは離職につながるリスクが高いです。コミュニケーションが苦手なメンバーに対しては特に配慮しましょう。
モチベーション
組織のメンバーの中には、表面的にやる気があるように見えても、心の中では活動に対してモチベーションが低下しているケースも珍しくありません。
モチベーションの低下はチームの生産性を低下させるだけでなく、最悪のケースでは組織からの離脱につながります。
1on1であれば、ほかのメンバーを気にせず、モチベーションについて話してもらえます。やる気が低下している原因を聞き出し、組織として改善してほしい点を聞き出しましょう。
自己評価
メンバーが1on1でしか話しづらいテーマとして自己評価も挙げられます。
たとえば、チームに貢献できたことや、反対にチームで失敗してしまったことなどを話してもらうことで、これまで見落としていたメンバーの長所や短所が見えてきます。
長所や短所が明確になれば、その後に相性のよい業務を割り当てることで、生産性を高めることが可能です。
組織で適材適所がうまくいっていないときは、自己評価をテーマとしてみるとよいでしょう。
人事評価
自己評価だけでなく人事評価も1on1で話すときのテーマです。
人事評価とは、組織で定められた基準をもとにメンバーに下す、働きぶりや能力などに対する評価です。報酬に関わる評価であるため、メンバーが結果に納得しないケースもあります。
不満を解消できなければ、メンバーのモチベーションが下がり、生産性も低くなります。1on1であれば評価の理由についてじっくりと伝えられます。メンバーの疑問に真摯に向き合いましょう。
目標設定
1on1の機会はメンバーの目標をじっくり決めるのにも最適です。たとえば、営業の成約件数や資格の取得、新たなスキルの習得などの目標設定が挙げられます。
1on1であれば、メンバーの現状を詳しく把握できるので、無理なく達成できる目標を設定できます。
ただ、組織の都合で目標を設定させるとメンバーが主体的に取り組めません。あくまでメンバーが自分で目標を導き出せるように話し合いをしましょう。
将来のキャリア
自身の市場価値を高められない組織だと、向上心のあるメンバーに離職されやすくなります。
メンバーが描く将来のキャリアについて、1on1でじっくり話す機会を設ければ、キャリア形成に役立つ業務を任せやすくなります。
メンバーとしては、目の前の業務に意味を見出しやすくなり、前向きに働きやすくなるでしょう。
組織の課題
相談を受ける立場のリーダーといえども、組織の課題を解決できずに困ることがあります。メンバーと1on1で組織の課題について話し合うと、打開策が見つかるかもしれません。
たとえば、競合が独創的な製品を発表して、自社のシェアが奪われたにもかかわらず、対抗できる新製品のアイデアが思い浮かばないこともあるでしょう。部下と新製品の方向性について話し合えば、画期的なアイデアが出てくるかもしれません。
組織に大きな影響を与える内容については、部下の立場からは口を出しづらいです。1on1でリーダーからアプローチして、メンバーの知恵を借りてみましょう。
体調やメンタル
リーダーが知らないところで体調不良やメンタル不調に悩んでいるメンバーも少なくありません。気づかず放置すれば、手術が必要な病気になったり、うつ病を発症して行動不能になったりする恐れがあります。
チームで周囲から心配されているメンバーがいれば、1on1のタイミングで体調やメンタルについての悩みはないか気にかけておきましょう。
相談された内容に応じて、業務量の調整や担当業務の変更、専門窓口の紹介など、対応策を検討します。
プライベートの悩み
組織でうまくいっているメンバーでも、人知れずプライベートの悩みを抱えている場合があります。たとえば、育児を始めた女性であれば、旦那さんが家事を一切手伝ってくれず、疲弊していることがあります。精神的に追い詰められてしまえば、チームでの活動に支障をきたすかもしれません。したがって1on1では、プライベートの悩みがないかを聞くことも大切です。
似たような体験を話して解決策を提案できればベストですが、第三者が解決できない悩みもあります。ただ、状況を理解していれば、業務を減らすなどしてフォローできます。理解者がいるだけで精神的な負担も減らせる可能性も高いです。もし相談してもらえた場合、寄り添う姿勢を伝えて安心させてあげましょう。
休日の過ごし方
メンバーが休日にリフレッシュできていないと、体調不良やメンタル不調につながります。休日を楽しみながら過ごせているか、それとなく会話を通して把握してみましょう。
メンバーでなく自分の休日の過ごし方を話すのも意味があります。たとえば、有休を使って旅行に出かけたエピソードを話せば、メンバーも休みを取りやすくなるでしょう。
休日の過ごし方について話し合うことは、管理職・メンバーともにワークライフバランスを見直すきっかけになります。1on1のアイスブレイクなどにもなるので、話し合いに組み込んでみましょう。
熱心に打ち込んでいる趣味
熱心に打ち込んでいる趣味について聞くことも組織にとって有益になる場合があります。
たとえば、趣味でブログを発信している方がいれば、広報の仕事について改善点を教えてもらえるかもしれません。YouTubeの投稿をしている方が見つかれば、映像制作業務を任せられる可能性もあります。
自分の得意分野を組織で活かせるのはメンバーにとってうれしいものです。
メンバーがより組織で輝けるように、趣味も1on1の話題としてみてはどうでしょう。
1on1で話すことを決めるための準備
1on1で話すことを充実させるためには、あらかじめ話すことを決めておくことが大切です。1on1で話すことを決めるときの準備について部下側と上司側に分けて解説します。
部下側の準備
部下にとって、1on1で全く必要がないことを話すのは、無駄に思えるでしょう。事前に話したいトピックを部下がアンケートで回答しておくと建設的です。
アンケートは、「コンディション」「よかったことの振り返り」「組織の人間関係」などの項目が複数用意されていて、チェックマークを入れるだけと部下も回答しやすいです。
上司の立場としても回答結果があれば、1on1で何を話すべきか一目で明確になるでしょう。
上司側の準備
上司が1on1で話すことを誤らないようにするには、コーチングの基礎を学ぶのもおすすめです。コーチングは、対象者に目標を設定させて、目標達成に向けて計画や実行を支援する手法です。
1on1の打合せは基本的にヒアリングをベースとした話し合いであり、対象者の主体性を尊重するコーチングと似ています。コーチングを理解しておけば、1on1で業務の知識だけを教えて、相手の話を聞かなかったという事態も回避できます。
1on1で話すことの決め方に不安があれば、コーチングについて学習してみてください。
1on1で話すことに関連して意識したいポイント
1on1で話すことに関連して意識したいポイントを解説します。
時間
1on1では時間制限を設けないと、雑談が多くなるなどして重要な話をし損ねてしまうことがあります。無駄な話を極力しないよう、話し合いの時間を事前に決めておきましょう。
一般的に1on1の時間は、30分から1時間が目安とされています。
実施者の立場では、メンバーの数に比例して話し合いの時間も増えがちです。忙しくて1on1が重荷になり、ほかの業務に支障をきたすようであれば、制限時間を30分にするとよいでしょう。
頻度
1on1は時間だけでなく頻度も意識する必要があります。間隔が空きすぎると、前回の話し合いのフィードバックが遅れたり、課題や悩みを相談する機会が減ったりします。
一般的に1on1の頻度は、週に1回から月に1回が目安とされ、繁忙期が続く場合は2~3か月や半年に1回程度行います。
ただ、必ずしも1on1を一定の周期で行う必要もありません。プロジェクトのピークや、メンバーが希望するタイミングなど、臨機応変に実施を増やしたり減らしたりするのもよいでしょう。
適任者
1on1は管理職と部下の関係で行われるイメージが強いかもしれません。しかし1on1は、組織のリーダーだけが行う話し合いではありません。
後輩の悩みについて解決策を提示できる先輩がいれば、役職を問わずに対応してもらったほうが効果的です。
メンバーの課題を自分では解決できない場合は、ほかに適任者がいないか探してみましょう。
1on1で話すことの注意点
1on1では、普段話題にしづらいテーマをメンバーと話せますが、やり方を誤ると効果が薄れたり、トラブルが発生したりします。1on1で話すことの注意点についても解説します。
記録を忘れないようにする
1on1で話す場合、メンバーの数だけ話し合いの機会が発生します。記録をしなければ、誰と何を話したのかがわからなくなり、話したことを生かせなくなります。
話したことを生かさなければ、1on1の時間が無駄になる可能性も高いです。1on1を実施しただけで満足してしまわないよう、必ず話したことを記録しましょう。
話したことを行動につなげる
1on1で話したことを記録に残したとしても、議題をアクションにつなげなければ、実施しないのと変わりません。話したことを行動につなげましょう。
ただ、話したことを記録しただけでは行動を起こしづらいです。メンバーが話した内容を記録するだけでなく、実施者が1on1のあとにやるべきことも記録しましょう。
【記録の例】
テーマ | メンバーが話した内容 | 実施後にやるべきこと |
業務 | 残業が毎日2時間くらい発生して疲弊している | ほかのメンバーに業務の一部を割り当てる |
秘密を口外しない
1on1では、ほかのメンバーに知られたくないことを相談される場合もあります。
秘密を口外してしまうと、メンバーの立場に悪影響が生じるリスクが高まります。
仮に1on1で特定のメンバーへの不満について相談されたとしましょう。相談内容が本人に伝わってしまえば、相談者が業務で嫌がらせを受けるかもしれません。
相談された内容を飲食の席などでうっかり話さないように注意してください。
1on1で話すことを部下からやめてほしいと思われる原因
1on1で話をするとき、部下からやめてほしいと思われることがあります。1on1で部下にストレスを与えれば、話し合いの効果が薄れるかもしれません。やめてほしいと思われる原因を把握しておきましょう。
専門性が感じられない
1on1では話すテーマが適切でも、専門性が感じられないアドバイスはやめてほしいと思われやすいです。
根拠がないアドバイスは、試しても意味がなかったり、逆効果を及ぼしたりする恐れがあるからでしょう。
たとえば、専門外の方がメンタル不調についてアドバイスをした結果、相手の精神がより不安定になるかもしれません。
専門外のアドバイスをする場合は、専門家の見解が書かれた書籍やホームページなどを参考にして、客観的に信頼度の高い情報を提供しましょう。
改善する意思が感じられない
改善する意思が感じられない1on1はやめてほしいと思われやすいです。
1回目の1on1で話をしたあと、2回目以降にフィードバックやリアクションもないと、言っても無駄だと思われます。メンバーの1on1に対するモチベーションが大きく低下します。
1on1を定期的に実施する場合は、各回ごとに改善に取り組んでいる進捗について、メンバーに必ず共有しましょう。
1on1で話すことに関するQ&A
1on1で話すことについて、ほかにもわからない点がある方もいるでしょう。1on1で話すことに関する疑問についてQ&A形式で回答します。
Q.1on1でエンジニアのメンバーに話すことは?
A.開発の進捗や課題などが挙げられます。
エンジニアの開発には納期があり、1人の開発が遅れるとプロジェクト全体に支障をきたします。その点、エンジニアがトラブルを抱え込み、言い出せなくなっている状況は危険です。
エンジニアが参加する1on1では、優先して開発の状況を聞き、うまくいっていないことがあれば、早急にサポートしましょう。
Q.1on1で部下側で話すことがないときは?
A.上司自身が自己開示をしてみましょう。
部下側で話すことがないときは、上司のことを深く知らないことが理由で、会話の内容が思い浮かばないのかもしれません。また、余計なことを話して評価を下げられるのが怖いと思われている可能性もあります。
上司自身が、自分の気持ちや悩み、考え方、価値観などを自己開示していくことが重要です。信頼関係が少しずつ醸成されていくうちに、部下が話してよい内容を判断しやすくなり、話したくなることも増えていくでしょう。
まとめ
1on1で話すことによって、メンバーの本音や不満、成長を把握したり、メンバーとの信頼関係を強化したりできます。
話すことのテーマは、業務や人間関係、モチベーション、自己評価などさまざまです。離職防止を目的とするなら体調やメンタル、プライベートの悩みなども気にかけましょう。
無駄な話が多くならないよう、事前にアンケートで話したいことを調査したり、制限時間を決めたりすることも重要です。
1on1で話すことは今回ご紹介したテーマだけにとどまりません。組織やメンバーの状況に応じて、臨機応変に話すことのテーマを変えてみましょう。